地下に住む
- 渡辺仁史

- 2018年3月22日
- 読了時間: 3分
更新日:2018年4月20日
新宿区大久保に自宅を建設してからほぼ10年が経過したのを機に、これまで引越し荷物の収蔵庫となっていた地下室をリニューアルして、スマートライフを実現できる新たな空間として利用することにしました。そこで、当初ここに地下室を作ろうと計画した経緯を簡単にメモしておこうと思います。
都心の狭隈なスペースの立体的な活用方法の一つは「高層化」ですが、上に伸びるだけではなくて下への利用も視野に入れるともっと世界が広がります。つまり「地下空間」の活用です。地下を掘るというのは、施工費が高い、いつも暗いなどのマイナスのイメージとして捉えられがちですが、技術とデザインを工夫することで、それに代わるだけのメリットが生まれます。

都心の木造住宅密集地である新宿区の大久保で、いかに住宅の地下室を確保するかについては10年前に実験住宅として各種の技術的な課題をクリアして実現しました。1.8mしかない狭い前面道路で鉄筋コンクリート住宅を施工するための工事車両の選定や半プレファブリックな専用の型枠を用いた施工方法、さらに新宿副都心にありながら未だに見直されていない建築指導行政への提言などを行いながら、耐震的にも防災的にも高品質の躯体(壁式ラーメン構造)を実現することができました。つまりハードウエアとしての地下居住の器が構築できました。


こうして近い将来に想定されている大地震にも、それに伴う大規模火災にも十分に耐えられるだけの拠点としての実験住宅は完成したのですが、そこでどのように暮らすのが適切なのかといったソフトウエアについても、この10年で少し方向が見えてきました。
その一つの例が、各階の床下に設置されたアクアチューブに備蓄されている大量の水ですが、冬にはこれをヒーターで温めて床暖房として使うだけではなくて、災害時にはこの水を生活用水として使えば4人で一週間程度は不自由しないだろうこともわかりました。また、近い将来には住宅そのものが情報化(ロボット化)することを見越して床下に30cm間隔に埋め込んだICタグを利用して生活する人の行動を支援できることもICタグリーダーを装着したロボットを使った実験で確かめました。

それ以外にも、防犯目的で住宅の透明化(開口部は全て透明ガラス仕上げ)したり、住宅密集地での屋上緑化など、たくさんの工夫が施された生活拠点となっているのですが、築後10年経った現在では、すでに家内が亡くなり4匹いたワンちゃんも半分になって、さらに私自身が一人暮らしの高齢者になったことで、この新宿の拠点の役割を新たに見直す時期が来たように思いました。
東京と石垣島との2拠点居住をすることを最近の暮らしのテーマにしていますが、単なる自分の生活拠点というのではなくて、これまで研究してきた生活空間における人間の行動という視点の延長として、人が集まりそこから新しい考え方が創造されそれが発信できるような「場」が東京にも石垣島にもできることを目指しています。
その最初の「場」作りが今回の大久保の実験住宅のリニューアルの目的であり、それをこの家の最大の特徴である「地下空間」に展開しようということになったわけです。どのような空間が実現したのかは竣工後にまた紹介しようと思います。



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